世界につながる英語の土台づくり – 吉田研作 上智大学名誉教授
日本の英語教育は、第2次大戦後一貫して英語の4技能の育成を目指してきました。1947年の学習指導要領の試案には、英語を習得するということについて「聴き方にも,話し方にも,読み方にも,書き方にも注意しながら英語を生きたことばとして学ぶ」ことの重要性が述べられています。にもかかわらず、実際には文法訳読中心の英語教育がずっと続いてきました。なぜそうなったのか。
一つの原因は、1970年代まで日本人が留学を含め海外に出ることがありませんでしたので、実際に英語を聞いたり話したりする必要性がなかったこと、また、1980年代まで日本人と歴史的に深い関係があった韓国朝鮮人以外の外国人がほとんど日本にいなかった、という現実があります(日本は99.9%日本人)。ということは、英語教育の「理想」と「現実」の間に大きなギャップが存在し、結局は教室というFish Bowl の中で学ぶ英語以外は必要なかったと言えるでしょう。入試もその Fish Bowl で学んだ英語の「知識」をテストすることにとどまっていました。
しかし、その後、バブル経済とともに、日本人がどんどん外国に出だしました。90年代の
アメリカへの留学生の数は日本人が一番多かったといわれているほどです。また、80年代
以降は日本に来る外国人の数も急激に増えました。そして、それまで教室という Fish
Bowl でしか英語は必要なかったものが、日本国内でも、また、海外に出る日本人にとって
必要不可欠なものとなっていったのです。Fish BowlからOpen Seas で英語が使えなけれ
ばならなくなったのです。今回の学習指導要領が従来の言語形式(文法、発音、語法など
)に基づいた従来のものからCan-do(英語で何が出来るか)に基づいたものに変わったこ
とは、まさに、日本の英語教育がFish Bowl から Open Seasへと大きく舵を切ったことを
意味していると言えるでしょう。
ことばの力で世界とつながる – 藤田 保 上智大学教授
約10年前の企画段階から「まず語彙や文法項目を決めて、それを練習させるための文を無理やり作るのではなく、生徒たちが言いたいことを自然に話せるようにしたい」 という思いで、余計なことを気にせず自由に作る方針を固めました。 使うことばはできるだけ自然に、 テーマはできるだけ生徒たちに身近なものを、ということを念頭に置きつつ、毎月の編集会議で議論を重ねながら作り上げたのが本書です。
本書の特徴は4技能5領域をシームレスにつないで、 自然に使える英語力をしっかりと培える作りになっていることです。 私たちの言語使用では複数の言語領域を同時に使い 「資料を見ながら 《読む》 人の話を聞いて 《聞く》 メモを取り 《書く》 分からないことを質問する 《話す》」 のは当たり前です。
本書は特別なことをせずとも、テキストをそのまま進めれば、聞いたことを読み、読んだことについて話し、話したことについて書き、書いたことを発表する、 という流れが自然にできるように構成されています。
コロナ禍でリモートワークやオンライン会議が一気に普及し、家から一歩も出ずとも世界中と繋がれるようになりました。 その一方で、 それまで当然すぎた 「実際に人と会って話をする」 という体験の尊さも実感するようになりました。 言語を単なる情報伝達の手段だと考えれば AI 翻訳などに頼ればいいでしょう。しかし、 心と心を通い合わせ、本当に理解しあうためにはしっかり向き合って話し合うことが不可欠でしょう。本書で生徒同士がやり取りをする機会を頻繁に設けているのはそのためです。 本書で学んだ生徒たちが、周りの人々との触れ合いを心から楽しみ、世界中に友達の輪を広げていってくれるよう心から願っています。